いつかルーヴルで逢いたい絵画:ヴァトー《ピエロ》

ヴァトー ルーヴル美術館 memories

いつかルーヴル美術館に行くことができたなら──

夢と憧れの気持ちで読み始めた本。

中野京子著『はじめてのルーヴル』集英社、2016年

この本に掲載されていた作品の中でわたしが気になったものを少しずつご紹介していきます。

Vol.1:ヴァトー《ピエロ》1719年

ヴァトーの名前はロココ美術の代表画家として、美術検定のために必死で暗記したので知っていた。

《シテール島への巡礼》1717年は、柔らかい色合いで、キューピットが絵の中を飛び回り、人々が楽しそうに戯れているのが印象的な作品。

でも、《ピエロ》は違った。

描かれていたのは、居心地が悪そうなひとりのピエロ。

その姿は、わたしの記憶のなかのヴァトーとは全く違うものに見えた。

ヴァトー ピエロ
ジャン=アントワーヌ・ヴァトー《ピエロ(ジル)》1719年、ルーヴル美術館蔵
出典:Wikimedia Commons

どうしてこの絵にこんなに惹かれたのか、最初はわからなかった。

ただ、ピエロの立ち姿が自分の意思ではなく、誰かに立たされているように見えたからかもしれない。

サイズのあっていない衣装に着られているような姿はどこか滑稽だけれど、愛おしくもあった。

ピエロのすぐ後ろには、数人の人物が描かれている。

中には医者の姿もあるというけれど、最初はただのにぎやかな仲間たちだと思っていた。

よく見ると、誰ひとりピエロを見ていない。

賑わいのなかにあって、彼だけがぽつんと孤立していた。

画面の中で彼は唯一こちらを見ているが、視線は向けられているというより、ただ放たれているように思えた。

彼の孤独はきっと本人にも説明できないまま、そこに置かれているのだろう。

それを鑑賞者のわたしが見つめている。

その違和感が、どこか今の自分と重なる気がした。

誰かと一緒にいるのに、ひとりのような感覚。

名前はあっても、そこにちゃんと自分がいるとは限らない。

ピエロはそんな不安定な状況でその場所に立っているように見えた。

それでも立ち続けている。

その姿が、どうしようもなく気になったのだとわかった。

名画から感じた色──孤独

記憶に残った、ただの色ではないもの。

静かな孤独の舞台を彩っていた色をカラーパレットに。

ヴァトー ピエロ

いつかルーヴルで逢えることを夢見て。

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